論論論

蒙昧書捨

罪について

罪は何によってその人に帰せられるのであろうか。二人しかいない世界での殺人は罪か。自分の書いた紙によって自分が騙された時、自分は嘘つきになるのか。

この世界に罪が残るとしたら、それは罪を犯した証拠によってなるだろう。時間が経過すればするほど、罪を犯したのが誰かあやふやになってくる。それは証拠が物や記憶であるからそうなるのだが、この世の根源的な性質でもある。

将棋をプレイしているとして、片方のプレイヤーがあるタイミングで2歩を行うとする。これを罪とする。しかしそのままゲームを続行するうちに、盤上と持ち駒が罪を犯していない場合にも発生するパターンに戻ったとする。この場合、罪を犯す必要もなくまた現在の盤を見る限りはどこにも罪の証拠はない。この罪の消滅は、将棋が完全な世界だから可能なのだ。

この世界は不完全なので、罪を犯せばその痕跡は宇宙の完全な消滅まで永劫残り続ける。どんな些細な罪であってもあるいは善行も、薄れては行くが消えはしない。時間の経過した極限の世界でようやく、罪と善行がゼロになる。